舞台芸術の新たな挑戦
3月某日、新国立劇場の稽古場は特別な雰囲気に包まれていました。脚本家の小林靖子、演出の朴璐美、振付家の森山開次という豪華な顔ぶれが揃う舞台『平家物語―胡蝶の被斬―』が、14日からの本番に向けて着実に仕上がっている様子を見学するため、私はその場に足を運びました。
この舞台は、古典名作である「平家物語」を元に、靖子さんが初めて舞台の脚本に挑戦し、朴さんが演出、森山さんが振付を担当しています。声優が多く出演者に名を連ねていますが、単に朗読劇ではなく、芝居や舞踊と融合した新しい形の「総合舞台芸術」を目指しています。
迫力の凄まじさ
稽古が始まると、朴さんの「呼吸を合わせるんだよ!」という言葉とともに、出演者たちが一斉に動き出しました。まず目にしたのは、台本を手にしたメインキャストたちの立ち姿や座り姿から漂う役のオーラ。彼らの声が発せられるたびに、美しい台詞が命を吹き込まれ、一つの物語が形作られていく兆しが見えました。誠に驚くべきです。
メインキャストの周囲には、オーディションで選ばれたマルチパフォーマーやダンサーたちもいて、彼らは平家物語の一節を唱和したり、時に群衆に、武者に、波となって物語を体現していきます。そのダイナミックな動きと響き合う声が生み出すハーモニーは耳に心地よく、特別な舞台の空気感を醸し出しています。
各キャラクターの感情の深さ
この日、平清盛を演じたのは山路和弘さん。栄華を極めた権力者の、空しさを内包した複雑な心情を見事に演じ、観る者の心を掴みます。台本を持ちながらも、彼の演技には不思議な説得力がありました。
また、妻・時子役の麻実れいさんや長女・徳子役の咲妃みゆさんはその美しさと演技力で、平家の悲哀を深く描写。三男の宗盛役に扮した関智一さんや五男・重衡の島﨑信長さんの表現からは、時代に翻弄された平家一族の悲しみが伝わってきます。
踊りと音楽の調和
さらに、ダンサーたちの肉体表現は圧巻で、琵琶や尺八の生演奏と融合し、舞台の風景を次々と切り替えて、観客は平安時代の情景を視覚的にも体感します。森山さんは、出演者の動き一つ一つに細やかな調整を加え、小さなステップ変化が舞台全体に大きな影響を与えることに驚かされました。
稽古の進化と今後の期待
稽古が進むにつれ、台本の存在はもはや意識されなくなっていきました。それほどに、平家一族の物語が目の前に現れ、壇ノ浦の悲劇が見えています。朴さんが目指す「新しい芝居」の言葉が、この稽古を通じて痛感され、照明や衣装、音響が加わった本番では、どれほど深く広がるのか、期待が膨らみます。
公演は14日から17日まで、すでに残席僅かと聞きました。この新たな舞台を是非、多くの方に体感していただきたいと思います。
鈴木美潮について
著名な読売新聞記者としての鈴木美潮氏の多彩な活動も無視できません。特撮への情熱も素晴らしく、彼の視点で語られる舞台芸術の内容は貴重です。今後の活動に乞うご期待です。