大唐から来た音色、古琴の魅力
2023年4月20日、東京・根津美術館で行われた特別なコンサートは、千年の時を超えた音楽の饗宴として多くの人々の心を鷲掴みにしました。このイベントに特別招待されたのは、中国・虞山派の古琴奏者である史雲龍(し うんりゅう)氏。彼の演奏によって「虞山物語」が展開され、観客はまるで唐代の風景を目の前に再現しているかのような感覚に浸りました。
古琴は、中国の伝統楽器の一つであり、その歴史は三千年に及びます。書道や茶道と並んで、古琴は心身の修養を目指す「修身の道」として位置付けられています。この楽器を通じて、多くの文人や修行者たちが道を求め、琴の音色に深い精神性を感じ取ってきました。孔子や大唐の詩人・李白もこの楽器の魅力に引き込まれたことは有名です。
コンサート当日、史雲龍氏自身も伝統的な赤い唐服に身を包み、その姿はまさに李白自身を彷彿とさせるものでした。彼が奏でる古琴の音が講堂全体を包み込み、古代の情景が浮かび上がる瞬間、観客たちは吸い込まれるようにその音色に耳を傾けました。古琴の一音一音には歴史の重みと文化の躍動感が含まれており、その響きは心に響くものがありました。
公演には、茶道や漆芸などの伝統文化に親しむ愛好者たちも多く訪れ、琴の音色に深い感動を覚えました。彼らにとって、古琴の音楽は単なる音でなく、精神性を感じさせるものであり、時を超えた大唐の文化を思い起こさせるものでした。ある観客は感動のあまり、「史先生の琴の音色に触れ、大唐の繁栄した光景が目の前に広がるようでした」と述べ、深い興奮を隠せませんでした。
更に、多くの観客が古琴の演奏を聴いたのは初めてであり、彼らにとってその体験は新鮮で特別なものでした。例えば、「同じ曲『酒狂』でも、鎌倉での演奏と比べて、今回は心を静めて聴くことができ、自身が落ち着いていくのを感じた」との声もあり、演奏の雰囲気や技術について語られていました。琴の音色は時に奔放で、時に静謐であり、毎回異なる体験を提供してくれるものです。
特に、「流水」が奏でられた瞬間、観客の心を奪いました。それはまるで水が流れ出すかのように、全ての空間が生き生きとした水の流れで満たされ、心がその流れに揺られる感覚を味わったのです。観客の一人は、「まるで別世界にいるかのような、静かな空間が広がった」という感想を述べ、その美しさに魅了された様子でした。
公演終了後、史雲龍氏は「大道は同じ源を持ち、琴道は美しい精神の時空を創造します」と語り、音楽を通じて国境を超えた共通の精神的財産を築くことの重要性についても触れました。彼の言葉には、古琴の響きを新たな生命力として現代に蘇らせるべきだという強い思いが込められていました。
今回のコンサートは、チケットが発売と同時に即完売し、追加席の要望が相次ぎました。主催者側も追加席を設けるなど対応しましたが、すべての観客の要望には応えきれなかったのが残念でした。次回の公演に向けた準備はすでに進められており、琴を愛する全ての人々が再びその響きに触れる機会を楽しみにしています。